手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.10 – 宮田涼介

私は横浜サラリーマン殺害事件の裁判を何度か傍聴した。ネット上での様々な憶測も相まって、一般人が犠牲となった事件にしては傍聴者が多く、その多くが涼太と同年代と思しき男性である。私は傍聴席の最後列で身を潜めるように座っていた。前方の関係者席には...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.9 – 宮田涼介

私は不意に、中学の時に読んだ保健の教科書を思い出す。性行為についての記載だった。「子孫を残すための行為が苦痛を伴うものなら、その生物は滅びる。だから、神はその行為に快楽を与えた」と。私はつくづく思う。この世に「神性なる領域」というものが存在...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.8 – 宮田涼介

文化祭当日、友人の居ない私はひとまず出欠確認の頃合いに校舎へ赴き、一頻(ひとしき)りこの動物園を見て回ることにした。銀杏並木の其処彼処で肉食獣共が女子高生と会話し、連絡先を交換している。校舎内では、喫茶店などを出店する運動部の連中が、ホスト...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.7 – 宮田涼介

私と涼太の進学先であるZ高校は、神奈川県横浜市に位置する男子校である。東急東横線H駅前の横断歩道を渡り、銀杏並木を登り切って右手に校舎が見える。入学式当日、私は練馬区からはるばる横浜市まで電車で移動し、H駅前の銀杏並木を歩む。漫(みだ)りに...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.6 – 宮田涼介

「こちらは事件現場となった横浜市中区日ノ出町のアパートです。こちらの一室で被害者の遺体が発見されました。遺体に首を絞められた痕跡があることから、警察は殺人事件と断定し捜査を続けています。その後の捜査の結果、遺体の発見された部屋は契約者のいな...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.5 – 宮田涼介

中学二年の春休みにこんなことがあった。私は初めて安原の家に足を踏み入れたのだ。安原の家は私の家から徒歩で三分ほど。外環自動車道の大泉ジャンクションから程近くであった。安原に一緒に勉強しようと声をかけられた私は、難関高であるX学院、Y実業、Z...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.4 – 宮田涼介

そうして一学期が過ぎ、夏休みが明け、二学期が始まったばかりの頃だった。「なぁ、聞いたか? 吉井が夏休みに彼女とやったってよ」他愛ない休み時間の会話だ。教室の後ろのロッカーに屯(たむろ)する男子達が痴話談義に花を咲かせる。中学二年にもなると、...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.3 – 宮田涼介

安原涼太との出逢いは中学時代に遡る。中学二年から三年にかけての同級生だった。私は、彼のあまりの存在感の薄さ故、初めて顔を見た時に「こんな奴いたか?」と首を傾げたほどだった。寝癖だらけの頭髪、まるで洒落っ気のない黒縁の眼鏡、その割に大きく見開...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.2 – 宮田涼介

「御免ください、安原涼太の父ですが、息子の遺品整理に参りました」師走の昼下がり、挨拶も程々に如何にもバツの悪そうな面持ちでずかずかと私の家に上がり込むのは涼太の父親だ。事件から九ヶ月もの月日が過ぎ、今更になって練馬からはるばる逗子までやって...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.1 – 宮田涼介

「ねぇ、あたしと遊びません?」「ねぇ、お時間ありません?」「挿れてくれるなら一万五千、お口だけなら五千円よ」「そこの安いホテルで良いわよ」逗子海岸の穏やかな波音。頬を掠める潮風に乗って、我が親友の魂の彷徨いが聞こえた。聞こえた気がした。黄昏...