
第一章 進化の行き止まり
作:NYO
小さなスペースに集った二人の男性、一人の女性。
三人はそれぞれパソコンを開いており、それぞれZ〇〇Mにログインしている。(コロナ禍の最中の公演であったため、リモートで観劇するための工夫でもあった)
男性たちのハンドルネームはそれぞれ『ツタヤ』と『みにまる』。女性は『たかこ』。
ツタヤは演説の真っ最中。
ツタヤ「代官山のツタヤカフェをこよなく愛する高等遊民だったんですが、家を追い出されまして、お金もないのでもうツタヤにも通えません。働いたこともないですし、居場所もないですし。だから、居場所を作るしかないと思いまして。新国家を樹立しようと思うんです。あなた方は国民になって下さい」
たかこ・みにまる「えー、なんでー」
ツタヤ「なんとなくです。二人とも、私の言うことを理解してくれそうだったから」
たかこさん「できません」
みにまる「できません」
ツタヤ「あなた方は、明らかに日本に適応できていません。でもそれは、あなた方が悪いんじゃない!あなた方についてこられない日本人が悪いのです。彼らは進化を止めてしまった。『集まれ××の森』をただのゲームだとお思いですか?あれは、人間の進歩をゲームの中に移し替えて、人類の進化を止めてしまうシステムなのです。しかし、あなたたちは違った。ゲームのシステムのスキマをついて、怠け始めたのです!それこそが進化だ!みんな拝金主義の奴隷になって、資本家に労働させられ、身も心もすり減らしています。そんなのは間違っている!そう思いませんか!」
たかこ「おもいます」
みんまる「おもいます」
ツタヤ「うれしいです。では、国民はそれぞれ自己紹介してください」
たかこ「今は…仕事はしてません。金ならあります。マンションで一人暮らしです。共産主義が趣味で、平等にしたいんですけど、平等にする相手がいなくて。そういう意味で、新国家樹立はありです。前は大手の広告代理店に勤めてたんですけど、セクシュアルハラスメントされまして、男性は大嫌いです。でも、お二人は男性だと思ってません。だから、問題ないです」
ツタヤ「あんた、失礼だな」
みにまる「私も一人暮らしです。基本、ミニマリストですね。不要なものはぜんぶ捨てましたが、今度はモノが無くなってあいた空間が不要になりました。この空間をどう処分しようか悩んでいます。いる場所だけ、あればいい。いる場所だけの国家を作るなら、新国家建設は賛成です」
ツタヤ「それですよ!お二人とも、その思想ですよ!国家のスキマに国家を作るんです!誰の邪魔にもならない国家を!我々が社会のなかで報われないのは、人間が進歩の限界に達したからだと思うんです。労働に疑問を持った我々最先端の人類に、他の人類が違和感を感じ、排斥しようとしたのが原因かと思います。彼らのこの愚かな行動をやめさせなければ、人類に明日はない」
たかこ「人類進化のもう一段先に行きましょう!ホモ・サピエンスを超えるのです!労働が不要な人類になればいいんですよ!」
みにまる「尾てい骨も虫垂もいらない。そんなものがあるうちは、まだ人類は進化できる。もっと失わなければならない」
ツタヤ「トレードオフですね!失ったことで、得るのです!」
みにまる「人類に不毛な行動を捨てさせるのが重要じゃないですか?彼らはまだ我々について来られていない。人類の進化を妨げる要素を排除しましょう」
ツタヤ「マウントをとってくる人が苦手です。あいつら排除したいですね」
みにまる「でも、彼ら強気ですからね。ケンカ強いんじゃないですか」
ツタヤ「直接対決は避けたいです」
みにまる「無駄な行動は捨てましょう。ツタヤさん自身がマウントを取られないよう、進化するという手段もあります」
ツタヤ「マウントを取られないためには、自分が一番上になればいい。神になればいい」
みにまる「ツタヤさんは、偉くなりたいんですね」
たかこさん「平等に反するわ」
ツタヤ「平等にトップになればいいんですよ」
みにまる「全員神ですね」
ツタヤ「そうそう、神話から始めましょうか。我々は新国家を作った、いわば神です。それに相応しい神話くらいないといけませんよ」
みにまる「不要じゃないですか、神話なんて」
たかこ「フィクションであろうと、国家の起源を持っているのは無駄なことではないかと。統治の正統性に関する無用な議論は避けられます」
みにまる「無用なものを避けられる……。いいですね」
三人、スパゲッティモンスターになったり星座になったり、自分勝手に創世神話を演じる。
たかこ「やっぱこれ、なんか違うんじゃないですかね。無駄な神話って言うのも、やっぱりある気がします」
みにまる「無駄は嫌ですね」
たかこ「平等な国家づくりとは、まったく関係のない方向に行っている気もします。我々の議論も行き詰まりを見せましたが、これは私たち最先端の人類も含めた全人類が進化の袋小路に入ってしまったのが原因ではないでしょうか」
ツタヤ「うーん、人類以上になるには、人類を捨てる覚悟が必要なのかもしれません」
みにまる「例えば、無駄なデコボコを捨ててしまった方が宇宙には適応できるという話を聞いたことがあります。それこそボールみたいなまん丸の姿のほうが、エネルギー効率もいいのだとか」
ツタヤ「いいですね!宇宙時代に相応しい議論だと思います」
たかこ「まん丸のガンダムに、まん丸の人間が搭乗するほうが、宇宙では強いんですね!スタイルのいい悪いとかもなくって、平等でいいと思います」
みにまる「人間以外から進化のモデルを学ぶ必要もあるかもしれませんね。人間は無駄なものが多すぎる」
たかこ「遠い未来には、オスがいなくなるという話も聞いたことがあります。Y染色体がなんとかなんだとか。率先して男を排除すれば、人類はより進化できるかもしれません」
みにまる「なるほど、男が不要ならば、捨ててしまうのがいいと思います」
ツタヤ「じゃあ、それは新国家の憲法に盛り込みましょう。ちなみに、私たちは神なので男も女もなく、その憲法の条文が適用されることはありません」
みにまる「イカやタコもかなり進化しているようですよ。頭もいいそうです」
たかこ「え、バカじゃないですかね?すぐ、タコツボとかに入って捕まっちゃうし」
みにまる「あれは、巻貝だった時代の名残の記憶らしいです。わー、昔、こんな感じの背中についてたよね、なつかしー。と、思わずツボに入ってしまう。つまり、ずーっと昔のことを覚えていられる優秀な生き物ということです」
ツタヤ「では、タコのように賢く進化しようということで、憲法に採択したいと思います」
たかこ「つまり、我が国の国民は、丸っこくて男も女もなく、タコのように賢いということでしょうか」
ツタヤ「そういうことになりますね」
たかこ「確かに、人類であることは捨てていますが、果たしてそんな存在になりたいでしょうか」
みにまる「なりたくないですね」
たかこ「そもそも、我々が国家に求めるものが互いに矛盾しているのです」
ツタヤ「そうですか……?私は、国のトップになれればなんでもいいです」
たかこ「私は、身分も所得の差もない平等な国がいいです」
みにまる「私は何もない国がいいです。空間すらいりません。無です。自分もいりません」
ツタヤ「平等な国にトップは要らないですね。無の国には他者がいないから、平等になれようもないですね。無の国にはトップはいないでしょう。無ですから」
シーンと静まり返る三人。
ツタヤ「これはいけませんね。人間じゃなくなるのは嫌ですが、人間である限りは実現できない理想です」
たかこ「やはり、人間を超えましょう」
みにまる「そうだ、パソコンの中で暮らせばいい」
たかこ「どういうことです?」
みにまる「肉体の情報も、記憶もすべて電子的にハードディスクの中に入れてしまって、現実の体は捨ててしまえばいいのです。ハードディスクに自分の全情報を入れた瞬間に、肉体が蒸発するような装置を作って」
ツタヤ「パソコン!これこそ、火に代わる人間の進化を促進する鍵です!」
みにまる「なるほど。パソコンの中ならそれぞれ自分の思う通りの世界が作れる。これなら、みんな平等にトップでありながら、無になれますね」
たかこ「でも、私パソコン苦手だから」
ツタヤ「『××森』の中に、全身どっぷり入るようなもんですよ。すぐに慣れます」
みにまる「そもそも、進化とは進歩のことではない。外界に適応するための不断の変化のこと。我々が部屋に閉じこもるという変化も、より高い適応を得るための変化なのかもしれ ない。パソコンに没入し、パソコンの中に入って暮らしたいと思い始めたのも、ひとつの進化ではないでしょうか」
ツタヤ「そう言うことで言えば、Z〇〇Mは進化のひとつの鍵です。Z〇〇Mは人間のコミュニケーションをパソコンの中に格納したものですから。みなさんの目の前にZ〇〇Mを開いておいたのも、進化を促進するためなのです」
たかこ「これ作ったのツタヤさんですか?すごいですね、神ですもんね」
ツタヤ「中国アプリです」
たかこ「おお、共産主義社会からの贈り物だったんですね」
みにまる「すべてのことが繋がってきました。あらゆることが、我々が進化するために発達してきたのですね。××森も、パソコンも、共産主義中国も、そしてZ〇〇Mも」
みにまる「ひきこもり共和国を成立させるためのお膳立てだったのです!」
ツタヤ「僕は帝国がいいなぁ」
たかこ「社会主義連邦にしましょう」
三人、ため息。
たかこ「そういえば、お腹がすきましたねぇ」
みにまる「我々はまだ肉体を捨てきれない。過渡期の状態です」
たかこ「パンをよこせ。しからずんば死を」
ツタヤ「コンビニ行きましょうか」
みにまる「デジタル世界に完全移住はまだ遠そうですね」
たかこ「私、苦手な人が苦手なんで。そして、ほとんどの人が苦手なので。特に男性が苦手なので。店員が男性だったら食品と通貨の交換が成り立たないので、みなさんにお任せします」
ツタヤ「じゃあ、ウーバーイーツとかにしますか?ピザーラとか?」
みにまる「時間の無駄ですよ。すぐ近くにコンビニあるのに」
ツタヤ「じゃあ、二人で行きますか」
みにまる「店員とコミュニケーションとるのが無駄なんで、一人で行ってください。二人で行くのも無駄です。私一人で行く選択肢もありますが、その場合、経路は最短距離、買うものも最低限、コンビニ入口から最短距離で行き着くものを買います。店員とも最低限しか話しません。それでもいいなら私がいってきます」
たかこ「私、シャケおにぎりが食べたいです」
みにまる「入口から遠いからダメです」
たかこ「食べたいものが食べたいです。ああ、コミュニケーションさえ取れたなら」
みにまる「やめてください。コミュニケーションなんて、僕らの社会主義連邦共和国帝国には不要ですよ」
たかこ「Z〇〇M!Z〇〇Mがあるじゃないですか!少なくとも、男性店員と直接会わなくて済みます。Z〇〇Mで買い物できるようにすればいいんです!」
ツタヤ「じゃあ、アマゾンでいいでしょう」
みにまる「ダメです。タイムラグがあります」
ツタヤ「欲望が生じた瞬間に、欲望の対象物がすぐ隣にあればいいわけですね」
みにまる「そうです。おにぎりを食べたい時に、すでにおにぎりを握っていればいいわけです、この手に!」
ツタヤ「ビッグデータですよ!アマゾンがAIで顧客の欲しいものを把握し、ちょうど欲しい瞬間に届けてくれればいいのです!おにぎりも、コーヒーも、マンガも、マイカーも、 家も、女も!」
たかこ「女はモノじゃないです!」
ツタヤ「いや、モノですよ。物質です。では、あなたの好きな時に、好きな男をお届けしましょう。どうです、平等でしょう」
たかこ「それならいいです。あと、女が欲しい女と、男が欲しい男がいることも忘れないで下さい」
ツタヤ「カスタマーサービスに伝えときますね。獣も二次元も3DCGも、すべて用意しておきましょう」
たかこ「いいですね!それ、ぜんぶパソコンでできるじゃないですか」
ツタヤ「そうですね。あとは配達員をすべてドローンにすれば、人とコミュニケーションを取る必要はなくなります」
みにまる「いいですね!我らが国に必要なのは、パソコンとアマゾンのみ!」
ツタヤ「パソコン!ああ、パソコン!部屋に存在しながらも、外界とコミュニケーションがとれる科学的ガジェットの登場というわけですね。しかし、私たちはその使用法に熟達していない。脱出しがたい部屋を脱出し、こうして集まってもらったのはそういう意味もあるのです。早速パソコンに熟達することから始めましょう。まずはエクセルからいきましょうか」
たかこ「脱出しがたい部屋を脱出して、ツタヤさんの部屋まで来た甲斐がありました」
みにまる「Z〇〇Mがあるなら、集まる必要すらなかったと思うのですが」
ツタヤ「そこは、進化の過渡期ということでお許しください。我々は、まだ両足で立ち上がったばかり。不器用な指先で、ようやく火を扱い始めたばかりなのですから」


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