手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.30 – 宮田涼介

——結局のところ、あたしはあたしという個物が許せないのだ。 その日の夜の京浜急行終電、逗子・葉山行き。電車の揺れに耐えられず、あたしの身体は不意に蹌踉めく。半分ずれたウィッグを気にも留めず、朦朧とする意識の中でも唇だけは真っ赤に染め上げる。...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 – vol.29

——あたしは男社会に敗れ、男社会への憎しみと復讐心が産んだ怪物。男でも女でもなく、ただの怪物。 「お前、毎日毎日おでんばかり食べて、よく飽きないな。いつも具材ごとに容器を分けて」その日の夜の、ホテルの室内にて。会社役員の客は経済談義を交わし...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.28 – 宮田涼介

——何が「Z大学卒業ってことで期待されてたんだけどな」だ。お前らが勝手に期待して勝手に失望しただけだ。「安原よ、ここのところますます痩せているように見えるが、飯は食べているのか? 睡眠は取っているのか?」翌朝早々、部長から直々に会議室に呼び...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.27 – 宮田涼介

——僕は、自分らしく干されるほうが良いと思うね「涼太、ちょっと痩せ過ぎじゃない? 僕が作ったご飯も最近全然食べてないし。普段何食べてるの?」同居人もあたしの体型が気になっているようだった。確かに同居人はあたしに手料理を拵えてくれる。毎度のこ...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.26 – 宮田涼介

——この化粧は武装だ。仮面だ。あたしにとって鐙を身に纏うがための、この社会に身を投じるための通過儀礼だ。「安原さ、明日から化粧して出社するのをやめてもらえないか」数日後に課長代理の平林に呼び出されたあたしは、何を指南されるのかと思いきや、あ...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.25 – 宮田涼介

——どんな男も射精には叶わない、射精を前にしては無力だということを。 二人目の客の、立ち小便の要求など可愛いもので、屋外で交わった回数なんか数知れなかった。あたしはラブホテルのベッドの上、ひいては路上で排便もした。客の男がベッドを指差して「...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.24 – 宮田涼介

——こいつは男の頂点、あたしは男の底辺。あたしみたいな底辺に、お前みたいな頂点の男がぱっくりと口を開けて、狐のように薄い目をして、その腰を小刻みに激しく痙攣させ、歓喜の声を伴って熱い液を垂らす。「あなた、この間の客とアレしたの?」この辺りの...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.23 – 宮田涼介

俺は絶対に、新たなる自分に転生するのだ。確かなる高揚感。やり場なき焦燥、不安に駆られる生活に終止符を打つべく、俺は夜の蝶になる。新しい自分を手に入れる。念の為だが、元来俺は男色家ではない。女性になりたい男でもない。俺は異性愛者であり性自認も...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.22 – 宮田涼介

俺が初めて性風俗に踏み込んだ時のことを話そう。忘れもしない二〇二一年の五月のことだ。職場でこっぴどく叱責を喰らわされ、失意の淵に堕ちた俺は、その足で桜木町駅の向こう側へ足を運ぼうと思った。俺がやるべき復讐について考える中で、あの戦地を思いつ...
手弱男と作法(宮田涼介)

手弱男(たおやお)と作法 vol.21 – 宮田涼介

結局、二〇一八年一月、鬱病及び発達障害と診断された俺は休職を余儀なくされた。もう心身の疲弊が限界に達していたのだと思う。後に聞いた話によると、俺は経理課のデスクで突然奇声を発して倒れたらしかった。俺はそんなこと微塵も記憶していないし、直属の...