
第1章 氷河期と革命軍
作:NYO
古今東西、文明が行き過ぎた国は滅びる傾向にあります。そこには、ある一定のパターンが存在する。日本もご多分にもれず、その鬼門に向かって滑り落ちようとしています。
発達した都市のなかで純粋培養されたエリートたちが、軽々に革新を叫ぶ。先人の作った秩序を破壊したあげく、国中に広がった混乱の中で彼らは支持を失い、一方で無秩序の鍛え上げた力ある者が伸し上がります。権力闘争は実力闘争に発展し、やがて国は荒廃して滅びを迎える。目に見えるようです。
今、与党が政権の座から追い落とされ、希死の会が国政を執ればどうなるか。他の野党から引き抜いてきた、極左議員を中心とする最大派閥が反米的態度を取る可能性が高い。
その時、駒潟さんは抗し得る力をお持ちだろうか。
軍閥政権が跋扈する中国大陸の、なかでも東海岸を制する上海国民政府はアメリカと台湾海峡を挟んでにらみ合っている。日本に左派政権が誕生すれば、台湾に展開する米軍に揺さぶりをかけることになるでしょう。希死の会には、安保条約の廃棄すら望む者たちもいると聞きます。
米軍が日本から撤退すれば上海の台湾占領は必定。シーレーンを締め上げ、原油価格を高騰させて我らの競争力を削ぎ、衰退した日本の国土を奪取することも不可能ではなくなるでしょう。
さて、ここまで話せばお分かりかと思いますが、希死の会がこれ以上の躍進を遂げれば事態は破局へと向かいます。急進的な改革者が国を亡ぼす好例ともなり得るでしょう。
なので、私としてはあなた方に政権を取って頂きたくない。ただ、氷河期世代の不満を一手に吸収している希死の会は、日本にとって必要であることもまた事実。
お説もっともです。
まさに彼の言う通りで、俺も同じことを心配していた。
いかに希死の会が躍進し、党首が盤石な立場を築いたところで国が亡んだら終わりだ。
苦笑する俺を見て、同じ現状認識を共有していると理解した老人は、本題に入るべく再び弁舌を振るい始めた。
駒潟さん、あなたのいいところは俗物であることです。自分一人の利益さえ図れれば、特に政権を取りたいとも思っていない。むしろ、政権など取ってしまえば救世の毒薬はそれを望む者たちに渡り、党大会で約束した通りにあなたは死なねばならなくなる。
そこに、私とあなたが手を握り合う余地があるわけです。
つまり、氷河期世代の不満を暴発させないよう、ほどよい達成感を得られる程度に革命を一進一退させ、同時に希死の会を政権に近づけないようにする。
私はあなたに、与党と政府が握っている情報を共有します。あなたは私に、希死の会の内部情報を提供してほしい。
そのうえで駒潟さんがどう行動すべきかは、この厭世閣主人が指南しましょう。
あなたが権力の座にいながら生を全うできるよう、最善を尽くす所存です。
老人は震える手を俺に差し出す。俺はそれを握って微笑む。
裏切者同士の同盟がここに成立した。一人は国を守るために、一人は自分を守るためにお互いの味方をだまし続けなければならない。


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