団塊ノ絶滅、氷河期ノオワリ Episode.009

第2章 総帥の栄光と不安

作:NYO

 ・・・と、これが俺の語り得る革命の現状だ。
 つまり、二月蜂起が上手くいったのは俺が老人と手を組み、その指示に従っていたからで、和尚の立てた計画なんぞが本当に図に当たっていたかは疑わしい。それを、すべて自分の天才がなした業だと思い込んでいやがるんだから。アホとしか言いようがない。
 自分の賢さに自信のあるやつほどダマされやすいってのは本当だな。
 まあ、俺もアホには違いないが、己が神の掌の上で踊らされていることを自覚しているぶんだけヤツよりマシだといえるだろう。
 それにしても、老人から蜂起を持ちかけられた時にはさすがに驚いた。
 そこがカリスマなんだろうな。考えることのスケールがでかい。革命軍の占領地を作って、氷河期どもをそこに閉じ込めておけば少なくとも政権が転覆される恐れはないってわけだ。今のところ、事態は老人の思い通りに推移している。
 そして革命軍の進撃が止まり、戦線の膠着が決定的となったあの朝。党中央委員会の解散から間もなくして、オースギの遺体が見つかった。

 その日のうちに臨時の党中央委員会が開催されたが、幹部同士の利害がぶつかり合って議事は混乱。昼を過ぎても何ひとつ決まらなかった。
 希死の会には二大派閥がある。マオさんの議員グループと、党員の三割超を占める和尚の信者グループだ。彼らの威勢は党首たる俺でも無視できないが、ほかの幹部たちも力を持っていないわけじゃない。
 ロレンスは党の財務を取り仕切っていたし、シゲノブは若年層の支持を集めていた。
 ジュスティヌは渋谷周辺に展開する女給カフェグループの経営者で、風俗業界でも成功を収めたやり手だ。希死の会に資金提供を行っていたパトロンの一人であり、革命軍が蜂起する際はともに立ち、慰安所の開設にも協力してくれた功労者でもある。党の資金源として発言力を確保しているのはもちろんだが、多くの革命戦士たちは彼女に下半身を掴まれていて、そういう意味でもひとつの権力だった。
 オースギはアジテーターとしては一流で、彼の演説を耳にした群衆は魔法にかかったように熱狂した。不覚ながら、俺もヤツが党大会で絶叫する姿を見て心動かされ、涙ぐんだことさえある。
 尊厳死法の成立・・・二月蜂起前夜・・・。
 民衆の扇動が必要とされる時期には、彼ほど頼りになる男はいなかった。
 まあ、こうして聞くと英雄然と聞こえるかもしれないが、私生活におけるヤツの振る舞いはヒドいもいいところだ。
 オースギとは、アナキストの大杉栄から取ったコードネームだったが、ヤツは大杉の著書などひとつも読んだことはない。ユーチューブで、彼の人生の放埓な部分をオモシロおかしくまとめた動画を見てファンになったらしい。
 性的にだらしなく、立場の弱い者には暴言を、力の弱い人間には暴力を振るって何人もの自殺者を出した。そのたびにオースギは党に泣きつき、これを揉み消すのは他の幹部たちの仕事となった。時には反社会的組織に頼らなければならない場合もあり、彼らに頭を下げに行くときのマオさんなどは露骨にイヤな顔をしていたものだ。
 俺は立場上、オースギを叱責しなければならなかったが、ヤツはすべての放埓を大杉栄の名のもとに正当化した。尊敬する大杉先生だってやってたんだから、俺だってやっていいというわけである。
 大杉栄の人生を多分に曲解したヤツの発言に、さすがの俺も呆れるほかなかったが、その程度で済んで不幸中の幸いである。希死の会ははっきりリベラルの集団であり、党員たちの中にも確実にいるだろうアナキストのシンパにでも聞かれたら、ヤツは殺されていても不思議はなかった。
 だが、そんなオースギの言い分が押し通るのも、あの男が党にとって必要な人間だったからであり、その演説に心酔した決して少なくない党員たちが、篤く支持しているのを無視できなかったからでもある。
 それに、ヤツは希死の会を最初期から支えた生え抜きの幹部で、党と俺の命令には従順なところがあった。だから、俺はいざとなるとオースギを庇ったし、幹部として処遇し続けた。革命軍が蜂起してからは、ヤツに心酔する党員を集めて親衛隊を組織させ、俺の身辺を守らせてもいたのだ。
 オースギの死後に揉めたのは、その親衛隊の指揮権とヤツの担当していた新山下軍管区をどうするかということだった。

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