
第2章 総帥の栄光と不安
作:NYO
翌朝、兵士たちの歓声で俺は目覚めた。
なんだ・・・何事だ・・・!
軍服を着て天幕の外に飛び出すと、マオさんが満面の笑みで近づいてくる。
「やあ、おめでとう、駒潟同志」
おめでとう?どういうことだ。
怪訝な表情の俺を見て、マオさんは顔をしかめる。
「上海政府が、革命政府を国家承認したんだよ。テレビ見てないの?」
国家承認!?憲法もなきゃ大統領もいない、国家としての体裁などまったくなしていない革命勢力を国として認めたっていうのか?
「そこはほら、外交手腕ってやつだよ」
マオさんが脂ぎった顔をテカらせて笑う。彼は希死の会に入党する以前から上海シンパとして知られており、太い政治的パイプを有していると噂されていた。どうせ独断でコトを進めていたんだろう。党首である俺に相談もせずに・・・。
天幕に集められた幹部たちは、一様に疲れた表情をしていた。朝っぱらから深夜まで会議して、ようやくゆっくり眠れると思ったら翌日の早朝にまた叩き起こされたのだ。
一人だけ元気なマオさんが、スマホを取り出して電話をかけ始めた。皆に会話を聞かせたいのか通話をハンズフリーに切り替える。天幕中に能天気な呼び出し音が鳴り渡り、和尚などは不快なのか眉間にしわを寄せていた。
呼び出し音が切れるとスピーカーから甲高い中年男性の声が響いた。中国語だというくらいしかわからないが、マオさんは小馴れた様子で流暢にやりとりしている。
ひとしきり話した後に、マオさんは俺に向かってスマホを差し出した。
「上海政府の総統閣下が革命政府の代表に挨拶したいそうで」
おいおい、ちょっと待ってくれ。心の準備ってもんがあるだろ。こっちは政府を樹立した自覚も、その代表であるつもりもないんだぞ。なのに一国の政府の総統相手にいきなり挨拶しろってのか。
だが、マオさんは党の二大派閥の領袖のひとりだ。ここで顔を潰せば今後すこぶるやりにくくなるだろう。俺は上機嫌を装って、電話の向こうの総統閣下に挨拶する。
ニーハオ。ニーハオマ。貴国の国家承認に感謝申しあげる。シェイシェイ。
知る限りの中国語を交えて話すと、すかさずマオさんが翻訳する。無礼にならないよううまく取り繕ってくれたんだろう。相手も上機嫌で返事を返してきた。
「米帝と、その傀儡たる日帝に立ち向かうものは我々にとっても同志である。ついては貴国に経済的・軍事的支援を行うことに決した。以後はこれら帝国主義国家に対して共同して立ち向かい、東アジアに楽土をひらくことを望むものである」
マオさんの翻訳によれば、総統はそう言ってきているらしい。
『経済的・軍事的支援』か。どこか裏のありそうな提案だ。
言葉通りに受け取ることはできないな。
とりあえず「ありがとうシェイシェイ」とお礼を述べて、マオさんに通話を切らせた。
色々と裏のありそうな話ではあるが、兵士たちの士気高揚にも使えるし、国民に対して革命軍の正当性をアピールするいい宣伝にもなる。なにより、資金や物資はいくらあっても邪魔にはならない。今のところ敵産没収で凌いでいるが、継続的に支配領域を維持するには税金の取り立ても必要だろう。遅かれ早かれ、俺たちが生き残るためには「国」にならなきゃならんのだ。まあ、尊厳死を求める団体がおかしな話ではあるが。
上海政府との連携協議を進めるように指示すると、マオさんは脂でギラつく表情をさらにギラつかせて頷いた。こういうのを『ドヤ顔』というんだろう。
平静を装っているが、手柄を立てたマオさんに対して和尚がイラついているのが感じられた。革命の殊勲ナンバーワンは二月蜂起を成功させた自分だったのに、居心地のいい場所を追い立てられたといったところだ。それも、対立派閥のトップであるマオさんに。
まあ、自業自得だな。蜂起以前に党ナンバーツーだったマオさんを追い落としたのは、ほかでもない和尚だ。手柄を立てて伸し上がる、下剋上の風潮は彼が作ったものだから。
とりあえず、今できることもないのでこの場は解散することにした。
みんな寝たいだろう。俺も寝たい。


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