団塊ノ絶滅、氷河期ノオワリ Episode.013

第2章 総帥の栄光と不安

作:NYO

 はぁ、それにしても性急だ。革命政府についてはいずれ樹立を目指すつもりだったが、しばらく熟考のうえで進めたかった。
 さて、どうする?後戻りはできなくなった。
 2035年現在、統一政府が崩壊した中国大陸には大小の軍閥政権しか存在しない。沿岸の経済発展した諸都市を領する上海国民政府が抜きんでた力を持っていたが、米軍および自衛隊と対峙してきた東部戦区の軍人たちが首脳部を形成しているため、外交方針は先鋭的な反米・反日だ。
 昨年には、統一中国でさえ躊躇していた台湾侵攻を実行に移す過激ぶりで、第七艦隊を中心とする在日米軍の主力、海上自衛隊の多くの艦艇は出撃を余儀なくされた。台湾海峡を間に挟んで、上海と日米の睨み合いは現在でも続いている。
 これを好機として実行されたのが二月蜂起だ。海上自衛隊、在日米軍がほぼ日本を留守にしているなか、陸上自衛隊の一部を決起させたのである。和尚が主宰する宗教団体『コスモス・ウィル』は、氷河期世代の陸自制服組に多くの信者を獲得していた。首都圏に駐屯する部隊が一斉蜂起するや、氷河期たちも雪崩を打って立ち上がったというわけだ。
 政府にとっては内憂外患。台湾有事の勃発に加え、数十万単位の国民が反乱を起こし、おまけに実力組織はまともに機能しないわけだから。おかげで、今まで革命軍は鎮圧されずにいられたわけだ。
 つまり、二月蜂起が上手くいったのは上海政府のおかげであるとも言えるわけで、革命軍の兵士のなかにも彼らのシンパは多くいた。ただ、台湾海峡を取られたら上海政府に経済的な生殺与奪の権を握られるわけで、日米艦隊には頑張ってもらいたい。
 しかし、統一中国の崩壊がもたらした大混乱はアメリカ経済を直撃し、その覇権は揺らいでいる。軍や警察は国内外で起こるテロを抑止できず、中東諸国には反米政権が乱立した。アメリカ一強状態が終わりつつあるのだ。
 中東に手を取られるアメリカが、台湾でも戦争するとなれば二正面作戦ということになる。かつてのような力を持たないアメリカは、敵の台湾領有を認めて早めに講和に持ち込むだろう。そんな計算が上海政府にもあったんじゃないか。
 だが、意外やアメリカは粘り強かった。すると、今度は上海が窮することになる。
 かつて、統一中国で推し進められた一人っ子政策と、それに起因する高齢化が分裂後の諸国家をジリジリと苦しめていた。本来、上海政府にも戦争する余裕などないんじゃないか?不満でいっぱいの人民を暴発させぬよう、手っ取り早い戦果を求めた結果だと俺は見ていた。
 上海政府としては、俺たちを日米に揺さぶりをかける手ごまとして使いたいのだろう。第七艦隊は横須賀を拠点としていたし、日本の首都東京は横浜の目と鼻の先だ。革命軍はそのどちらもすぐに攻撃できる。せいぜい我々に大暴れしてもらって、台湾海峡から敵を退かせたいのだ。
 買いかぶりだな。革命軍はつい最近まで戦闘経験もなかった一般人がほとんどだ。二月蜂起がたまたまうまくいっただけで、上海政府が望むような大暴れなど俺たちには不可能といっていいだろう。
 まあ、特にリーダーは軍事教育をうけたこともない文士崩れだしな。俺が一番買いかぶられていることは間違いない。
 だが、革命軍総帥を買いかぶっていたのは上海政府だけじゃなかった。
 国家承認の騒ぎから数日。一般兵士たちのなかに、二月蜂起や革命政府樹立はすべて党首の指導の賜物であるとする者たちが出てきたのだ。俺は本格的に革命家扱いされ、畏怖され始めた。オースギ粛清の噂には信憑性が加わり、駒潟ならやりかねないと信じて疑わない連中が増え始めているらしい。
 まあ、いいだろう。俺の権威は高まり、軍の綱紀は引き締まる。当面それでもいい。
 しかし、いつか冤罪は晴らさねばならない。むしろ、問題はオースギが自殺であった場合だ。単なる自殺の場合、潔白の証明は難しくなる。犯人がいないのだから。どうか他殺であってほしい。犯人さえ見つかれば俺の無実は明らかとなる。

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