
プロローグ
作:NYO
天幕の支柱にぶら下がったオースギを見つけたのは、党中央委員会が終了した、ほんの一時間後だった。
「駒潟同志が来られた時には、オースギ同志の遺体はもうこの状態だったわけですね」
だから、さっきからそう言ってるだろうが。
俺がグッと睨むと、若い衛生兵は明らかに怯えた表情を見せた。
「ご自身で首を吊られたんですかね。だとしたら、何で下半身に何も身に着けておられないのか・・・」
さあな、俺が知るか。
心のうちで毒づきながら、俺はオースギの変色した顔を見る。
良かったじゃないか、望み通りになって。なのに、どうしてそう無念そうなんだ?
白目を剥き、眉根を寄せ、舌を口から飛び出させて・・・。
舌先からは、口腔に残った吐瀉物がポタポタと滴り落ちていた。
あー、実に醜い。
足元に水溜まりが広がってきていることに気づき、俺は後ずさる。ヤツの脚部を伝って流れ落ちた小便だった。よく見ればオースギの足は地面に着いている。不思議な首吊り死体もあるもんだと怪しんでよく眺めていると、ヤツ自身の重さで少しばかり首が伸びているように見えた。なるほど、だからか・・・。
オースギが漏らした糞尿やら体液やらの臭いで咽そうになりながら、それでも俺は笑いそうになってしまう。ヤツが語る希死念慮は口ばかりで、特に党幹部になってからは生にしがみついているのは明らかだったから。
オースギの首には、ヤツ自身を吊り下げているロープのほかにストラップ付きのスマホがかけられていた。秘匿携帯電話というやつだ。自衛隊が採用しているモデルだが、恐らくこいつで革命軍の情報を敵方に流していたんだろう。
良心が咎めて自殺したのか?罪の告白のつもりで、わざわざこんなものを首からさげたのだろうか?だが、なぜフルチンになる必要がある?
大体、こいつは自殺するようなタマじゃない。
そこで、さっきの若い衛生兵の怯えた表情の理由を理解する。
周囲を見回すと、現場の清掃をする衛生兵たちが、俺と目が合わないよう立ち回っていることに気付いた。
どうやら、俺が見せしめにオースギを粛清したと思っているらしい。下手に関わり合いになって、同じように殺されることを恐れているのだ。
死にたがりほど苦しみを嫌い、キレイに逝きたがる。
彼らが求めるのは安楽死で、苦痛と屈辱にまみれながらの最期じゃない。
このぶんじゃ、オースギを吊るしたのも、首にスマホをかけたのも、それから下半身を剥いたのもすべて俺の仕業だと思われてるんだろうな。
まったくの冤罪だ。
愛人と気分よく目覚めた朝に、誰が汚い中年男のパンツなど脱がせたいのか。
それに、どちらかといえばオースギは俺の味方だった。これから党の運営は格段に難しくなることだろう。
さて、どうする・・・このままじゃ革命が進んじまうぞ。

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