団塊ノ絶滅、氷河期ノオワリ Episode.017

第三章 なにがしか大きなもの

作:NYO

 「では、何のためにオースギを殺したのか?犯人の目的は何でしょう?」
 教師が生徒を導くように、ロレンスが問いかける。
 「やつの裏切りを証明し、見せしめとして晒すためだ。それしかないだろう」
 まあ、ハッキリ言って状況証拠でしかないことは俺にもわかってる。オースギが自殺した後に、誰かが秘匿携帯を首から下げたのかもしれなかった。他殺を証明する物証は何ひとつない。しかし、俺はもう他殺だと決めた。そう決めて、素早く動かなければ次に殺されるのは俺かもしれない。
 「よし、じゃあさっそくオースギ周辺に、怪しげな言動をしている人物がいなかったかを調査しよう。そのうえで・・・」
 「犯人捜しですか。それは賛成できませんね・・・」
 「わかってるよ、俺が一番の容疑者だと言いたいんだろ?濡れ衣を着せる相手を探しているようにも見えるかもな。しかし、このまま犯人をのさばらせては・・・」
 「いえ、少し泳がせてみてはどうかと」
 「泳がせる・・・犯人をか?」
 「ええ、この件はもう少しスケールが大きい。オースギの周辺ばかりに気を取られていると足をすくわれかねない。そんな気がするんです」
 自分自身の裏切りを見透かされたような気がして、脈拍が早まるのがわかった。こいつは鋭すぎて心臓に悪い。
 「どういうことだ?」
 「例えばオースギの秘匿端末、あれは防衛省が管理しています。前線にいる自衛官が、個人の裁量で手に入れられる代物ではありません。恐らく、かなり上流の指揮権が絡んでいるのではないかと」
 「自衛隊の中でも、相当えらいヤツが噛んでるってことか」
 「その可能性もあるなと。一方で気になるのが、オースギを殺した犯人は、どうやって彼が秘匿端末を所持していると気付くことができたのかということです」
 「オースギのことだから、単に迂闊だっただけじゃないのか?通話で裏切りの相談をしてる時に、誰かに聞かれたとか」
 「これ見よがしに端末の画面をのぞき込ませたり、大声で裏切りの相談でもしていれば別ですが・・・。党幹部も誰ひとり裏切りを察知できず、私の監視下にあっても尻尾を掴めなかったのですから。情報管理意識が希薄なオースギといえども、アナログな面ではそれなりに注意を払っていたということです」
 「じゃ、なんだと思うんだ?やっぱアレか、ハッキングとかウィルスとか・・・」
 「秘匿端末のセキュリティレベルなら、それはあり得ないでしょう。むしろ調べるべきは秘匿端末そのものではなく、その貸与者が記載されたデータベースです」
 「貸与者のデータベース?図書館の貸し出し記録みたいなもんか?」
 「ええ、そう考えてもらってもいいです。防衛省のサーバに格納されている秘匿端末の支給情報を閲覧し、貸し出されている人物をしらみつぶしに調査すれば、オースギのように怪しげな人物を見つけ出すことも不可能ではありません」
 「おいおい、言うほど簡単にできるのか?」
 「高難度かつ地道な作業です。少なくとも個人でできることじゃない。防衛省のサーバに秘密裡にアクセスする技術と、貸出者名簿をローラー作戦で調査するマンパワーが必要です。一人ではとても無理だ」
 「殺した方も殺された方も、なにがしか背後に大きなものがついてるってことだな」
 「はい、二つの勢力は邪魔者を消すこともいとわぬ構えで、組織的にエージェントを支援している。そんな風に思えてならないのです」
 なんだこりゃ。大藪晴彦か?往年のハードボイルド小説じゃあるまいし。
 金と名誉欲しさに、トンデモないところに首を突っ込んじまったもんだ。
 ロレンスの言う通りだとしたら、裏切者を殺して回っている組織は、すでに俺が秘匿端末を持っていることを知っていることになる。革命軍総帥が自衛隊のスマホを持ってるなんて、その時点で裏切り確定じゃないか。
 いちばん罪深い俺を、なぜ真っ先に殺さない?
 ああ、殺せないのか。
 俺を殺したら革命軍は求心力を失って崩壊する。だから敢えて俺を生かして・・・。
 確証のない疑惑から妄想は生まれ、それがまた妄想を生み出す。
 裏切りをそそのかす組織と、裏切者を誅殺する組織―――。
 そんな、あるかどうかも分からないものが、俺の頭の中ではもう実在していた。

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